精神科の往診もあります。ご希望の方はお電話ください。
問診票には「やる気が起きない」と書いてあります。イズミさん(31)は2児の母親で、スーパーの正社員です。「眠りが浅く、朝早く起きてしまうし、食欲もありません。体がだるくて、テレビを見る気も、パソコンをする気も起きません」と訴えます。
イズミさんは3カ月前から、職場で20人のパートをまとめる責任者になりました。昇進したとあって、かなり張り切っていたようです。しかし、年上が多い女性パートをまとめるのは気を使うことも多く、精神的な疲労がたまっていきました。頼っていた上司が2カ月前に異動し、一人で何でも背負い込むようになり、残業も増えたといいます。
そのうち、考えがまとまらず、判断力も鈍り、仕事の段取りがむずかしくなっていきました。気分がすぐれず、休日に外出するのが嫌になり、時々いらいらしたり、何かに怖くなったりもしました。近所の内科で検査を受けましたが体には異常はみられず、私の診察室を訪れたのです。
「頑張り屋さんに多い典型的なうつ病のようですね」とイズミさんに伝えると、ちょっと驚いた顔をしていました。「うつ病は特別な病気ではなく、ちょっとしたきっかけでだれでもなる可能性があるんです」と説明しました。
聞くと、職場の人間関係はそれほど悪くないのですが、イズミさんは、責任ある立場として「すべて自分がやらなくては」と抱え込んでしまう傾向があるようです。やる気が出るような抗うつ薬とイライラや不安を和らげる薬を処方するとともに、「最年長のパートさんに頼ったり、悩んだら前任者に聞いたりして、自分の負担を滅らすようにしてみたら」と提案しました。数週間後には、気分がよくなり、意欲も出てきたといいます。
イズミさんのように、昇進などがきっかけで精神的負担が大きくなって、うつ病になる人は多くいます。治療は基本的に薬物療法と精神療法です。薬物治療というと、抵抗がある人もいると思いますが、副作用が少なくて効果的な薬もたくさん出ています。薬を飲んで早く治した方が、飲まずに悩み続けるよりずっと解決が早いのです。副作用は薬によって異なりますが、眠気や便秘などが出る場合もあります。解決に向けたヒントを示すことで、少しでもそうした女性の手助けになれば、と思います。