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マミさん(19)は医学部の学生だ。三日前から声が出なくなり、食物ののみ込みも悪くなったので、母親と来診した。
二年生になってから試験が続き、カフェインの錠剤を飲み、毎日深夜まで勉強を頑張っていた。病院実習や解剖実習も始まり、忙しく過ごしていた。
ところが、担当教官に実習の態度を「もっとまじめにやるように」と注意され、ショックを受けた。その直後から声が出なくなってしまったという。
マミさんは「実習は嫌い。大学をやめたい。でも、母親に期待されているし、心配をかけられない」と筆談で訴えた。
診察ではマミさんの症状や経過を聞き、気になっていることや悩んでいることを引き出し、心理的な葛藤や不安を自覚させるようにした。そして、「これからどうしたいかを自分で考えてみよう」と話した。
そのころ、マミさんは町で自転車に乗った子供が転びそうになるのを見て、「あーっ」と声が出た。それをきっかけに急に話せるようになった。
だが数日後、また声は出なくなってしまい、母親と三人でのカウンセリングを続けた。
母親は、「父親は仕事で不在がち。義父母や親類に認めてもらいたくて、娘を立派に育てようと思ってきた」と話した。
一方、マミさんは、「今まで母の言う通りにしていれば、なんでもうまくいった。こんな時代だから、手に職をつけておきなさいと言われ、あまり考えずに医学部に進んだ」と話した。
結局、マミさんは一年間休学して、その間に自分のやりたいことを考えることにした。そう決めると、うそのように声が出るようになった。
現在は元気にアルバイトをしていて、「復学するかどうかも含め、母とちゃんと将来のことを相談したい」という。
マミさんのような症状は心因性失声という。かつてはヒステリーと呼ばれたが、現在は身体表現性障害の中に分類される。物が見えなくなったり、手足が動かなくなったり、痛みを感じなかったりする場合もある。
女性に多く、マミさんのように過剰なストレスが続いている時に起こりやすい。意図的にやっているのではないが、結果的に周囲の同情や関心を得て、自分のやるべきことから免れ、不安を軽減できる。
まず原因となっている不安やストレスを知り、解決法を探すことが重要だ。