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会社員のユウコさん(22)は母親と二人暮らしだ。問診票には「男性が怖い」とある。
三か月前、仕事で遅くなり、駅で電車を待っていたら、近くにいた酔った男性二人が口論から殴り合いになった。駅員が止めに入り、大きな騒ぎにはならなかったが、見ていたユウコさんは立ちすくんでしまった。
「以来、夜になると苛立って、怖い夢も見るし、だんだん眠れないようになった。怒鳴り声にびくついて、テレビで乱暴なシーンを見ると気分が悪くなる。男性と話す時、緊張して、会社に行くのも嫌になった」というユウコさんの表情はこわばり、話を続けられなくなった。
抗うつ剤と精神安定剤を飲むことにしたら、二回目の診察では少し落ち着いてきた。
そこで、再び理由をたずねると、ユウコさんは幼い頃のことを泣きながら話し始めた。
「父は普段は優しかったが、怒ると手がつけられず、母をどなり、よく殴っていた。母をかばうと私も殴られた」という。
母親は「私は経済力がなく、娘のためにも離婚はできないと思っていた。どこに相談していいかもわからず、ただ耐えるしかなかった」と話した。
両親はユウコさんが小2の時に離婚し、それからは父親に会わず、過去を考えることもなかった。だが三か月前の出来事で突然、思い出してしまった。
ユウコさんは心的外傷後ストレス障害(PTSD)だ。恐ろしい体験をずっと「思い出したくない」と抑圧してきたが、ふとしたきっかけで激しい怒りと恐怖がこみ上げてきたのだ。
「小さな頃から神経質で内向的な自分が嫌いだった。私は異常なのでは」と聞くユウコさんに、「ひどい出来事を体験した人の当然の反応で、あなたは何も悪くない」と話した。
服薬とカウンセリングを続け、ユウコさんは母親や周囲の協力のもとで、少しずつだが、自分を誇れるようになり、男性に対しても大丈夫という気持ちを取り戻しつつある。
そして、過去を見つめ、父親の暴力は不当な虐待だったと認識し、心的外傷を普通の記憶として収めていく作業を続けている。
PTSDは通常、数週間から数か月おいて発症するが、ユウコさんのように幼児期に虐待を受けた場合などは、人格形成に影響し、より複雑になる。社会的不適応が長期化しないように注意が必要だ。